錯覚のデジタルトランスフォーメーション:中小企業における「ツール導入=DX」の構造的誤解 と「やってるつもり」の実態解剖(2024年版)

本レポートは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が2024年12月に公表した「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)アンケート調査報告書」を基軸資料とし、関連する経済指標、政策レポート、およびグローバルなDX研究データをAI(Gemini)で交差分析したものである。その目的は、日本経済の基盤を支える中小企業において、デジタルトランスフォーメーション(DX)がいかに表層的な「ツール導入」へと矮小化され、本質的な変革が阻害されているか、その構造的な実態(いわゆる「やってるつもりDX」)を7つの視点から冷徹に暴き出すことにある。
調査結果が一見示す「DX取組率の向上(42.0%)」や「高い成果実感(81.6%)」というポジティブな数値の裏側には、世界標準の定義からは程遠い「低いハードル設定」と「手段の目的化」が潜んでいる。
本稿では、改善策の提示を一切行わず、現状の認知構造がいかに企業の持続可能性を脅かすリスク要因となっているか、その病理の深さを徹底的に言語化する。
第1章 認知の歪曲:高止まりする「理解度」と成熟度の決定的乖離

1.1「言葉の理解」と「本質の理解」の断絶構造
2024 年の調査において、中小企業経営層の49.2%がDXを「理解している」または「ある程度理解してい
る」と回答した 。この数値は前年(49.1%)とほぼ横ばいであり、一見すると半数の企業経営者がデジタル
変革の概念を掌握しているかのように映る。しかし、この自己評価の高さこそが、日本の中小企業が陥っている
最初の、そして最大の陥穽である。
経済産業省が2018年の『DXレポート』で定義したDXの本質は、「データとデジタル技術を活用し、製品・サービス・ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織・プロセス・企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」にある 。
ここでの核心は、既存ビジネスの延長線上にはない「非連続な変革」と「競争優位の確立」である。
しかし、同調査における「DXに向けての取組みの進捗状況」を詳細に分析すると、その実態は「アナログで行っていた作業やデータのデジタル化(デジタイゼーション)」が35.7%で最多を占めており、DXの本丸である「ビジネスモデルや企業文化の変革(デジタルトランスフォーメーション)」の段階にある企業は依然として限定的である 。

上表が示す通り、最も初歩的な段階であるデジタイゼーションに多くの企業が滞留しているにもかかわらず、半数の経営者が「DXを理解している」と回答している事実は、経営者の脳内で「DX」という言葉の定義が「既存業務のIT化(デジタイゼーション)」に書き換えられていることを示唆している。
1.2 客観的成熟度データが暴く「井の中の蛙」
この「主観的な理解度」と「客観的な成熟度」のギャップは、IPA(情報処理推進機構)による「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2024年版)」との照合によってさらに鮮明になる。
同レポートによれば、自己診断を提出した企業の約7割を占める中小企業の成熟度レベル平均は「1.40」に過ぎない 。
成熟度レベル1とは「一部での散発的実施」であり、レベル2は「一部での戦略的実施」を指す。つまり、客観的には組織的な戦略なき散発的なツール利用の域を出ていないにもかかわらず、主観的なアンケートでは「理解している」と胸を張る経営者が多数存在するという構図である。
この認知の歪み(ダニング=クルーガー効果の組織的発現)は、企業の学習意欲を減退させる致命的な阻害要因となる。「自分たちは既に分かっている」と信じ込む経営者は、新たな知識の習得や外部からの提言に耳を貸さず、既存のメンタルモデルの枠内でのみ「変革」を模索しようとする。
その結果、世界市場や競合他社が生成AIやデータドリブン経営へとシフトする中で、日本の中小企業だけが「紙をなくすこと」をDXと呼び続けるガラパゴス化が進行しているのである。
1.3 「横ばい」が意味する思考停止と固定化
2023 年から2024年にかけて、生成AI(Generative AI)の急速な普及やデジタル技術の進化により、ビジネス環境は劇的に変化した。通常であれば、技術の複雑化に伴い「理解が追いつかない」と感じる層が増加するか、あるいは危機感を持った学習により理解度が向上するかのいずれかの動的な変化が生じるはずである。
しかし、理解度が49.2%(2024年)対49.1%(2023年)と完全に膠着している事実は 、中小企業経営層におけるDX認識が、2020年頃のパンデミック対応(リモートワーク導入やペーパーレス化)の文脈で固定化され、アップデートされていないことを強く示唆する。この「認識の化石化」は、新たな技術的機会を看過させ、企業の陳腐化を加速させる要因となっている。
第2章 手段の目的化:「ツール導入=DX」という錯覚の構造的定着

2.1 「PDF 化」をDXの頂点と誤認する病理
「DXの具体的な取組み内容」において、依然として圧倒的1位を占めているのが「文書の電子化・ペーパレス化」であり、その回答率は57.6%に達する 。
この数値は2位以下の項目(営業活動のオンライン化 37.6%、ホームページ作成 36.4%)を大きく引き離しており、日本の中小企業において「DX=ペーパーレス」という等式がいかに強固に根付いているかを物語っている。

特筆すべきは、「文書の電子化」の割合が前回の64.4%から6.8ポイント減少している点である。
これを「ペーパーレス化が完了し、次のステップへ進んだ」と解釈するのは、データの文脈を無視した楽観論に過ぎない。
なぜなら、より高度なDXの指標である「データの戦略的活用」(19.2%)や「AIの活用」(13.5%)の数値は依然として低水準に留まっているからである 。
もしペーパーレス化が完了し、データ活用フェーズへ移行したのであれば、データ活用関連の数値が爆発的に伸びていなければ計算が合わない。
そうではない現状は、多くの企業において「電子化プロジェクト」が一過性のブームとして終息し、あるいは「スキャナでPDF化して終わり」という低いレベルで満足し、それ以上のデータ連携や活用を放棄した(あるいはその必要性に気づいていない)ことを示唆している。
物理的な紙がデジタルごみ(検索不可能な画像PDF)に置き換わっただけの状態を、彼らは「DX完了」と錯覚している可能性が高
い。
2.2 既存プロセスの温存と「接ぎ木」のデジタル化
「ツール導入=DX」という誤解の核心は、業務プロセス(フロー)の再設計(BPR: Business Process Re-engineering)を伴わないツール導入にある。
多くの日本企業、特に歴史ある中小企業では、長年の慣習に基づいた複雑な業務フロー(多段階の承認プロセス、属人的な確認作業など)が存在する。
本来、DXとはこれらのプロセス自体を見直し、デジタルに最適化された形へ「破壊・再構築」することである。
しかし、調査結果において「基幹システムの構築・導入」(30.4%)や「クラウドサービスの活用」(31.2%)が上位に来る一方で、「ビジネスモデルの変革」への言及が少ないことは、既存の非効率なプロセスを温存したまま、その上にデジタルツールを無理やり「接ぎ木」しようとしている実態を浮き彫りにする 。
「現状の業務を変えずに、楽になるツールを入れてくれ」というベンダーへの丸投げ要求は、結果として、高機能なSaaSを導入したにもかかわらず、その運用が以前よりも複雑になるという「デジタル化のパラドックス」を引き起こす。
ツールは「魔法の杖」ではなく、あくまで設計されたプロセスを走らせるための「エンジン」に過ぎないという基本原則が欠落しているのである。
2.3 散発的導入による「サイロ化」の深化
各部門が「目の前の不便」を解消するためだけにツールを導入する「部分最適」のアプローチも、「ツール導入=DX」の典型的な弊害である。
経理部門は会計ソフト、営業部門はSFA、製造部門は生産管理システムを、互いの連携を考慮せずに導入する。
この結果、企業内には分断されたデータ(サイロ)が乱立することになる。
調査において「データの一元化、データに基づく意思決定」を期待する割合は26.2%に留まっており 、4分の3近くの企業がデータの統合に関心を持っていないか、あるいはその重要性を認識できていない。
データが繋がらない状態でAIなどの高度技術を導入しようとしても、学習データが存在しないため機能せず、結果として「デジタル投資は効果がない」という誤った学習性無力感に陥ることになる。
第3章 「守りのDX」への埋没:効率化の罠と縮小均衡への道

3.1 コスト削減至上主義が招く「未来の放棄」
DXに期待する成果・効果についての回答分布は、日本の中小企業のマインドセットがいかに「守り」に偏重しているかを如実に示している。
トップ2を占めるのは「コスト削減、生産性の向上」(38.8%)と「業務の自動化、効率化」(38.6%)である 。
これに対し、企業のトップライン(売上)を伸ばすための「攻めのDX」、すなわち「新規顧客の開拓」(15.8%)、「新たな商品・サービスの開発・提供創出」(15.3%)、「ビジネスモデルの変革」(17.8%)といった項目は、半分以下の水準に低迷している。

このデータは、多くの中小企業経営者がDXを「コストカットの道具」としてしか見ていないことを証明している。
これは日本経済が長年デフレ環境下にあったことの後遺症であり、「売上を伸ばすことは難しいが、コストは削れる」という縮小均衡の論理が骨の髄まで染み付いている証左である。
3.2 日本の労働生産性と「効率化」の限界
日本はOECD加盟国38カ国中、時間当たり労働生産性で29位(2022年データ)と低迷しており、G7では最下位が定位置となっている 。
この状況下で「効率化」を目指すこと自体は誤りではない。しかし、DXの本質は「今の仕事を速くすること」ではなく、「価値のない仕事をやめて、新しい価値を生む仕事にシフトすること」にある。
調査結果に見られる「効率化偏重」は、既存の低付加価値なビジネスモデルを前提としたまま、その処理速度を上げようとする試みである。
例えるなら、沈みゆく船の浸水を汲み出すバケツを、手動から電動ポンプに変えるようなものである。
ポンプ(デジタルツール)を導入すれば一時的に浸水(コスト)は減るかもしれないが、船の穴(ビジネスモデルの陳腐化)が塞がるわけでも、新しい航路(新規市場)が見つかるわけでもない。
「コスト削減」をゴールに設定した時点で、そのDXプロジェクトの上限(アップサイド)は「ゼロ(コストゼロ)」に固定され、それ以上の成長余地は構造的に消滅する。
3.3 グローバル基準との対比における特異性
世界のDXトレンドは、デジタル技術を用いて顧客体験(CX)を劇的に向上させ、既存の市場ルールを破壊(ディスラプト)することに主眼が置かれている 。
UberやNetflixのような事例を持ち出すまでもなく、海外の中小企業やスタートアップは、ニッチ市場においてデジタル武装し、グローバル市場へ打って出るための手段としてDXを活用している。
対して、本調査が浮き彫りにした日本の中小企業の姿は、内向きの「事務処理合理化」に終始している。
この「内向きのDX」と「外向きのDX」の差は、時間が経過するにつれて埋めがたい競争力の格差となって顕在化するだろう。
第4章 成功のインフレ:低すぎるハードルと8割の「満足」という自己欺瞞

4.1 81.6%という異常な高成果率の統計的パラドックス
本調査における最も不可解かつ危険なシグナルは、DXに取り組んでいる企業の**81.6%**が「成果が出ている(24.3%)」または「ある程度成果が出ている(57.3%)」と回答している点である 。
この数値は前年の76.7%からさらに4.9ポイント上昇しており、一見すると日本の中小企業DXは大成功を収めているかのように見える。
しかし、この数値はグローバルな定説と真っ向から矛盾する。マッキンゼーやBCGなどの国際的なコンサルティングファームの調査によれば、企業のデジタルトランスフォーメーションの成功率は極めて低く、約**70%**のプロジェクトが初期の目標を達成できずに失敗しているとされる 。
豊富な資金と人材を持つグローバル企業ですら7 割が苦杯を舐める難易度の高い変革において、リソースの乏しい日本の中小企業が8割以上成功しているという事態は、統計的に極めて不自然である。
4.2 「成果」の定義の矮小化とコンフォートゾーンへの安住
この矛盾を解く唯一の鍵は、「成果」の定義におけるハードルの高さの違いにある。
グローバル企業が目指すDXの成果とは、「市場シェアの拡大」「収益構造の転換」「新規事業の立ち上げによる収益化」といった、P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)に明確なインパクトを与える変革である。
一方、本調査の自由回答において挙げられた具体的な「成果」の事例を見ると、「見積書の作成時間が1日から4時間に短縮された」「テレワークが可能になった」「ペーパーレス100%を達成した」といった記述が並ぶ 。

つまり、日本の中小企業は「日常業務のマイナーチェンジ(改善)」や「ツールの導入完了」そのものを「DXの成功」と定義しているのである。
「Zoomが繋がった」「チャットツールが入った」というレベルで「成果が出た」と判定印を押してしまう。
この「成功のインフレ(安売り)」は、企業の変革意欲を削ぐ強力な麻酔となる。
「うちはもうDXで成果が出ている」と経営者が満足してしまえば、それ以上のリスクテイクや追加投資を行う動機は失われる。81.6%という高い数値は、成功の証ではなく、日本の中小企業がDXのゴールを「手の届く範囲」に勝手に引き下げ、安易な自己肯定感に浸っている現状(コンフォートゾーンへの安住)を映し出しているに過ぎない。
4.3 「やってるつもり」が生む競争力の喪失
「なんちゃってDX」による成功体験は、真の課題から目を逸らさせる効果を持つ。
本来解決すべきは「売上の減少」「人材不足による事業継続リスク」「市場の縮小」といった構造的な課題であるはずだが、目の前の事務作業が少し楽になったことで、これらの本質的な危機が先送りされる。
「成功した」と思い込んでいる間に、海外の競合や、真にDXを推進する国内のディスラプター(破壊的参入者)によって市場を奪われるリスクは、日増しに高まっている。
第5章 人材のパラドックス:解決策としてのDXへの不信と諦念

5.1 「人がいないからDXできない」というトートロジー
DXに取り組む上での課題として、調査対象企業の25.4%が「ITに関わる人材が足りない」、24.8%が「DX推進に関わる人材が足りない」を挙げ、これらが課題の上位を占めている 。
前年比ではわずかに減少しているものの、依然として「人材不足」はDX推進の最大のボトルネックとして認識されている。
「適任者がいない」という理由は、経営者にとって最も使い勝手の良い免罪符である。
しかし、外部のSaaSやノーコードツールが充実し、専門的なプログラミング知識がなくとも業務アプリが構築できる現代において、高度なIT人材の不在は必ずしもDXの決定的な阻害要因とはならない。
それにもかかわらず人材不足を理由にする背景には、「DXは専門家(誰か)がやってくれるもの」という他力本願な姿勢と、経営者自身がテクノロジーを理解し牽引すること(リスキリング)への忌避感が見え隠れする。
これは一種の「エージェンシー問題(代理人問題)」であり、経営者が自らのリーダーシップ不足を「人材市場」のせいに転嫁している構造である。
5.2 「DX で人手不足は解消しない」という絶望的な矛盾
本調査における最も深刻なデータの矛盾は、人材不足に対するDXの効力への不信感である。
従業員の過不足状況について「不足している」「非常に不足している」と回答した企業(全体の45.2%)に対し、「DXに取り組むことでその不足感は解消されるか」を尋ねたところ、46.6%(約半数)が「解消されると思わない」「あまり解消されると思わない」と回答している 。
ここに、日本の中小企業が抱える論理的な破綻が露呈している。
- 「人手が足りないから、DXが進まない」と嘆く。
- しかし、「DXを進めても、人手不足は解消しない」と信じている。
もしDXが人手不足の解決策にならないと本気で考えているのであれば、彼らは何のためにDX(と呼ぶもの)を行っているのか?
このデータは、多くの中小企業経営者がDXの本質的機能——すなわち「テクノロジーによる省人化」「自動化によるスケーラビティ(拡張性)の獲得」——を心の底では信じていないことを示している。
「デジタルを入れたところで、どうせ人の手は必要だ」「ウチの仕事は職人芸だから自動化できない」というアナログ偏重の信念(バイアス)が根強く残っており、テクノロジーを「人の代替」ではなく、あくまで「人の補助」としてしか捉えていない。
この「諦念」こそが、大胆な自動化投資や無人化へのシフトを阻み、結果として恒常的な人手不足地獄から抜け出せない主因となっている。
5.3 労働集約型モデルからの脱却拒否
人手不足をDXで解決できないと考える背景には、ビジネスモデル自体を変える気がないという意思が透けて見える。
労働集約型のビジネスモデルを維持したまま、単にツールを入れるだけであれば、確かにツールの管理工数が増えるだけで人手不足は解消しないかもしれない。
DXによる人手不足解消は、ビジネスモデルを「労働集約型」から「知識集約型」や「資本集約型(装置産業化)」へ転換することで初めて達成される。
46.6%という諦めの数値は、日本の中小企業がビジネスモデルの転換を拒絶し、人口減少社会において持続不可能な戦い方を続ける宣言に他ならない。
第6章 他力本願の財政構造:「補助金ありき」の投資判断とベンダーロックイン

6.1 投資ではなく「消費」としてのIT
DX推進に向けて期待する支援策として、全項目中で最多の**41.6%**の企業が「補助金・助成金」を挙げている 。
前年の49.3%からは低下したものの、依然として資金的支援への依存度は極めて高い。
一方で、「専門家の派遣」(16.4%)や「研修制度」(14.1%)といった、自社のケイパビリティ(能力)を高める支援への期待値は相対的に低い。
もちろん、資金余力の乏しい中小企業にとって公的支援は重要である。
しかし、DXへの支出は、将来のキャッシュフローを生み出すための「投資(Investment)」であり、本来であれば経営者がリスクを取って判断すべき事項である。
「補助金が出るならやる」「出ないならやらない」というスタンスは、IT導入をコピー用紙の購入と同じ「コスト(消費)」として捉えている証左である。
自社の生存と成長をかけた変革であれば、補助金の有無にかかわらず、必要なリソースを投じるのが経営の本義である。
補助金への過度な依存は、投資の意思決定権を「国」や「自治体」という外部要因に委ねていることを意味し、主体的な経営戦略の欠如を示唆している。
6.2 「IT 導入補助金」の副作用とベンダー主導の失敗
補助金ありきのDXプロジェクトは、往々にして「手段の目的化」を加速させる。
目的が「自社の課題解決」から「補助金の獲得」へとすり替わるからである。
IT ベンダー側もこの心理を巧みに利用し、「このツールを導入すれば最大〇〇万円の補助金が出ます(実質負担はわずかです)」というセールストークを展開する 。
結果として、自社の業務フローや課題に合致しない高機能すぎるシステムや、不要なハードウェアが導入されるケースが後を絶たない。
前述の「成果が出ている(81.6%)」という回答と併せて考えると、多くの企業は「補助金を使って安く導入できたこと」自体を成果(成功)と勘違いしている可能性すらある。
しかし、投資対効果(ROI)の分母(コスト)を補助金で小さく見せかけたとしても、分子(創出価値)がゼロであれば、企業の稼ぐ力は一向に向上しない。
さらに、補助金で導入したシステムは、保守費用の発生やデータの囲い込みによって「ベンダーロックイン」を招き、将来的なシステムの柔軟性を奪うリスクも孕んでいる。
第7章 組織の不全:経営ビジョンの欠落と「丸投げ」体質

7.1 「何から始めてよいかわからない」の真意と戦略の不在
DXに取り組む予定のない企業、あるいは課題を感じている企業の理由として、「具体的な効果や成果が見えない」(23.9%)と並んで根強いのが、「何から始めてよいかわからない」(全体課題として19.9%)、「どのように進めればよいのかわからない」(12.3%)という声である 。
インターネット上にDXに関する情報、事例、ガイドラインが溢れかえっている2024年において、「情報がなくて何から始めればいいかわからない」という言い訳は通用しない。
この発言の真意は、情報不足ではなく、「自社がどうなりたいか」というビジョン(To-Be像)の完全な欠落にある。
目的地が決まっていなければ、高精度な地図(技術情報)を持っていても、最初の一歩をどの方向に踏み出せばよいかわからないのは当然である。
DXはあくまで手段であり、その上位概念として「経営戦略」が存在しなければならない。
戦略なき状態で「DX」という手段だけを検討するから、「どのツールを買えばいいのか」という戦術論に終始し、結果として立ちす
くむことになる。
7.2 経営者の「意識」と「行動」の乖離:評論家型リーダーシップ
調査のクロス分析において、「必要だと思うが取組めていない」「取組む予定はない」企業層では、「経営者の意識・理解が足りない」という課題認識が相対的に高くなっている 。
しかし、第1章で触れた通り、DXの「理解度」自体は全体で約5割ある。
これは、「DXという言葉は知っているし、重要だとも口では言っている(意識)」が、「実際にリソースを配分し、リスクを取って陣頭指揮をとる(行動)」には至っていない、いわゆる「評論家タイプの経営者」が蔓延していることを示唆している。
また、「DX推進に関わる人材が足りない」という課題認識の裏には、「誰か(担当者)に丸投げしたい」という願望が透けて見える。
DXは業務プロセス、組織構造、評価制度、企業文化の変革を伴うため、現場からの抵抗や摩擦が必至である。
このような痛みを伴う改革は、権限を持たないIT担当者レベルでは不可能であり、経営トップが全責任を負って推進する以外に道はない 。
「人材不足」や「方法論の不明」を嘆く経営者の多くは、DXを「PCのセットアップ」のような作業レベルのタスクと誤解し、経営マター(CEO案件)として自分事化できていない。
この「主体性の不在」こそが、日本の中小企業における「なんちゃってDX」を量産し続ける根本原因である。
結論:2024年、「やってるつもりDX」の完成と静かなる退場
2024 年の調査データから浮かび上がる日本の中小企業のDXの実態は、以下のように要約できる。
- 定義の書き換えと自己満足:低いレベルのデジタル化(デジタイゼーション)を「DX」と独自定義し、それを達成することで「成果が出ている」と自己評価を完了させている。
- 手段の絶対化:ペーパレス化やツール導入そのものがゴールとなり、それによるビジネスモデル変革や競争力強化という本来の目的が完全に消失している。
- 変革の拒絶と諦念:人手不足の解消や生産性の抜本的向上といったテクノロジーの真価を信じず、既存の業務プロセスの延命措置としてデジタルを利用している。
- 他責と依存の常態化:人材不足や予算不足を理由に行動を先送りし、補助金という「麻酔」がなければ動けない体質が固定化されている。
「ツール導入=DX」という誤解は、単なる知識不足や過渡期の混乱ではない。
それは、変化を恐れ、現状維持を望む組織心理が、DXという外部からの「変革の圧力」を骨抜きにするために生み出した、極めて精巧な**「防衛機制」**である。
この誤解が解かれない限り、日本の中小企業は「DXをやっているつもり」のまま、デジタル時代における実質的な競争力を静かに、しかし確実に喪失し続けることになるだろう。
調査結果における「理解度」や「成果」の数値が表面上改善しているように見えることこそが、病巣の深さと、自浄作用の喪失を物語る最も恐ろしいシグナルである。
引用文献
- 202412_DX_report.pdf
- Current Status of Japan’s DX/GX Policies and Company Activities for Their Simultaneous Promotion | Research | The Tokyo Foundation, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://www.tokyofoundation.org/research/detail.php?id=967 - Promotion of DX by SMEs is the key to revival of the Japanese economy – Meiji.net, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://english-meiji.net/articles/4461/ - DX認定企業との成熟度ギャップは1段階程度、DX推進指標 自己診断結果分析レポート(2024年版)を公開 IPA – ニュートン・コンサルティング, 1月 21, 2026にアクセス、
https://www.newton-consulting.co.jp/itilnavi/flash/id=8427 - A Growth Study of Digital Transformation in Japan’s Small and MediumSized Enterprises (SMEs) – kth .diva, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://kth.diva-portal.org/smash/get/diva2:1856748/FULLTEXT01.pdf - Why 70% of Digital Transformations Fail: Insights and Solutions – Mavim Blog, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://blog.mavim.com/why-70-of-digital-transformations-fail-insights-and-solutions - Common pitfalls in transformations: A conversation with Jon Garcia | McKinsey, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://www.mckinsey.com/capabilities/transformation/ourinsights/common-pitfalls-in-transformations-a-conversation-with-jongarcia - Why Digital Transformations Fail | Digital Workplace | StitchDX Blog, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://stitchdx.com/blog/why-digital-transformations-fail/ - The ‘how’ of transformation | McKinsey, 1 月 21, 2026 にアクセス、
https://www.mckinsey.com/industries/retail/our-insights/the-how-of-transformation - 紙のデジタル化に悩む中小企業にありがちな誤解や勘違いとは? DXの推進を難しくしない方法とは, 1月 21, 2026にアクセス、
https://www.hammock.jp/defact/media/small-medium-enterprises-dx.html - DX の取り組みとは?目的・進め方・成功事例までわかりやすく解説 | マネーフォワード クラウド, 1 月 21, 2026 にアクセス、 https://biz.moneyforward.com/work-efficiency/basic/16109/

